Plusman LLC

2024年4月

Pulse Voice. 2

Innovation & Insights in MedTech On/Off

Plus.Lung.Noduleで
最良の画像診断をすべての患者さんに

藤井 佳美 先生

藤沢市民病院 放射線診断科 診療科部長

藤沢市民病院 放射線診断科 診療科部長 藤井 佳美 先生
「AIは放射線科医の可能性を広げてくれる」——
そう語る藤井佳美先生は、2020年に胸部CT-AI「Plus.Lung.Nodule」を導入し、日々その臨床的な価値を実感されています。
藤沢市民病院での具体的な症例を交えながら、画像診断におけるAIとの向き合い方について伺いました。

ここ数年のうちにAI(人工知能)は公共・民間サービスに広く実装され、社会インフラの一つとして私たちの日常生活に欠かすことのできないものとなりました。AIの利便性を一言で述べるならば、人間には容易に実行できない大量で複雑なタスクを短時間に実行できる点です。一方でその利便性を最大限に引き出せるのは、各分野のタスクに精通した人間であることも明らかになってきました。では放射線科医がよりよい診断を行うためにはAIをどのように活用していけばよいでしょうか。この5年間に経験した症例をいくつか紹介しながら、放射線科医にとってのAI技術の可能性を示したいと思います。

増加する画像診断業務

日本はCT、MRI装置の台数が多く、人口比で世界一であることはよく知られています。CT装置の台数は全国で約13,000台であり、これは1つのコンビニエンスストアチェーンの店舗数に匹敵するとされています(CT 13,136台、コンビニS 17,491店、コンビニL 11,600店、コンビニF 10,547店)。1) その一方で放射線科専門医の人数はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも最低水準で、放射線科医1人あたりの読影量は群を抜いています。2)(図1)
    近年、装置の高性能化により撮影にかかる時間は短縮され、検査数は増加しました。医療の高度化や医療安全意識の高まりから、患者さんが検査を受ける頻度も増しています。さらにコロナ禍以降、CT検査は胸部を含めた全身パンスキャンが一般的となり、同じ1件の検査であっても画像のデータ量は倍増しました。しかし当然ながら、人間の処理能力が劇的に向上することはありません。膨大な読影量に追い込まれた放射線科医が忙しい大病院の読影室を離れ、残った医師がさらに過重労働に陥るという問題も起きています。
    放射線科医の目は野球のピッチャーの肩と同じで、酷使すれば消耗します。長時間画像を見続けることにより疲労し、集中力の低下から見落としのリスクも大きくなります。昭和時代の野球ではピッチャーは先発完投することが目標で、投球数はほとんど考慮されませんでした。しかし現代野球では故障を防ぐため投球数100球前後でピッチャーを交代させるのが一般的になっています。画像診断の現場においても、貴重な医療資源である放射線科医の消耗を防ぎ、診断の質を維持する仕組みづくりが急務と考えます。

図1  人口100万人あたりの放射線科医数と放射線科医1人当たりの業務量

コロナ禍をきっかけにPlus.Lung.Noduleを導入

藤沢市民病院では2020年からAIを用いた肺結節の読影支援プログラムPlus.Lung.Noduleを導入しました。コロナ禍の初期、PCR検査が一般の病院では行うことができなかった時期に、CTは大きな役割を果たしました。藤沢市民病院では当初、発熱した患者さんや手術前の患者さんに対して新型コロナウイルス肺炎のスクリーニングとしてCTを行っていました。初めてみる新型コロナウイルス肺炎の所見を、論文片手にディスカッションしながら読影したことを覚えています。スクリーニングのCTの中にはときに肺癌や肺転移の症例も混在しています。放射線科医は肺炎以外に、肺結節も見落さないようにしなければなりません。読影の負荷を減らし、診断の精度を高める目的でPlus.Lung.Noduleの導入が決まりました。
    コロナ禍を経て、Plus.Lung.Noduleは肺結節の診断になくてはならないものとなりました。プログラムは初回導入からバージョンアップを経て、肺結節の読影をサポートするRegion Of Interest(ROI)表示やサイズの計測だけでなく、病変のVolume Doubling Time(VDT)を自動計測することも可能となりました(病変のオートトラッキング機能)。また縦隔リンパ節の読影を支援するROIを表示する機能も追加され、単純CTでのリンパ節の指摘に役立っています。
    一説によりますと、画像診断のAIソフトウエアが導入されている施設でも、常にそれを使用している放射線科医は3割程度といわれています。私は肺結節に関しては常にAIでの解析結果を参照しています。(緊急で読影を行う必要があり、AIでの解析が終わっていない場合は除く。)Plus.Lung.Noduleが導入されてから、小さな肺結節を見落とさないよう肺野のページングを何度も繰り返すことはなくなりました。肺結節のサイズを手動で計測することも、もうありません。何より肺結節を見落とすのではないかというプレッシャーから解放されたことは大きなメリットです。

胸部CT読影の実際

Plus.Lung.Noduleを用いた胸部CTの読影についてご説明します。まずは肺野を自分の目で確認します。その後、ショートカットキーを用いてAIによる解析結果を表示します。肺野条件の最初のスライスにROIの個数が表示されますので、ROIがゼロの場合は再度、肺野をスクロールして結節に関する読影は終了とします。いくつかのROIが表示された場合は、ROIで囲まれた結節を個別に評価していきます。真の結節かどうか、悪性を疑う所見がないか、過去の画像がある場合は比較読影を行い、サイズや性状に変化がないかを確認します。精査やフォローが必要な結節があれば読影レポートに記載します。(図2)径3㎝を超える腫瘤や浸潤影についてはAIによる解析の対象外ですので、そのような病変があれば改めて観察を行います。
    当院では、ROI表示対象となる陰影のサイズを径4mm以上としています。臨床的に有意な結節は漏らさずROI表示し、微小な肺内リンパ装置などはなるべく指摘しないような閾値として、径4mmが最適と判断し、設定を行いました。

図2 Plus.Lung.Noduleを使用した読影の実際

人間の目の弱点を補うAIソフトウエア

胸部の画像診断では放射線科医とAIによるダブルチェックが有用であること示す論文がすでに報告されています。Li D.らは系統的レビューを行い、胸部CT、単純X線写真の診断においてAIソフトウエアが放射線科医の診断にどのような影響を与えるかを検討しました。その結果、医師がAIソフトウエアを使用した場合、平均感度は67.8%から74.6%に、特異性は82.2%から85.4%に、精度は75.4%から81.7%に、ROC曲線下面積(AUC)は0.75から0.80に増加しました。読影時間もより速くなり、放射線科医のパフォーマンスは向上したとされています。3)
    当院で経験したPlus.Lung.Noduleが有用であった症例をお示しします。

 症例① 40歳台女性 膠原病肺の精査目的でCT施行

膠原病の既往のある患者さんです。息切れがあり間質性肺炎を除外する目的でCTが行われました。間質性肺炎の所見はありませんでしたが、AIによる解析結果を表示すると右下葉内側に径5mmの結節にROIが表示されました。初めに画像をみていた時には気が付かなかった病変です。本症例では結節のサイズが、血管の径と同等であったことから、脳が結節を血管の一部と誤認し、気が付くことができなかったものと思われます。縦隔の近傍は肺結節の見落としが起きやすい部位として知られています。4)AIの解析結果の確認を習慣化すれば、見落としのリスクは減らすことができます。

症例① 右下葉内側に小結節がある。縦隔近傍の病変は人間の目では見落としやすい。

 症例② 80歳台男性 COVID-19肺炎精査のためCT施行

COVID-19肺炎精査のためCTが行われました。右下葉に径18mmの結節を認め、肺癌が疑われました。この肺結節を見落とすことはないと思いますが、右肺門下部のリンパ節はいかがでしょうか。1つの病変を見つけて安心し、他の病変を見落としてしまったという経験は、放射線科医なら誰しもあると思います。また単純CTでは肺門リンパ節の評価は困難で、ある程度サイズが大きくても目に入ってこないことがあります。縦隔肺門病変の検出にもAIによる解析が有用です。

症例② 右下葉の結節を見落とすことはないが、右肺門リンパ節腫大は指摘が難しい。
                人間は1つ異常をみつけると、安心して2つ目の異常を見落とす傾向がある。

 症例③ 80歳台男性 右下腹部痛の精査目的でCT施行

右側腹部痛のため救急外来を受診した患者さんです。腹部骨盤のCTが行われましたが、痛みの原因は指摘できませんでした。読影を終了する前にAIの解析結果を表示したところ、左肺底部に径12mmの結節にROIが表示されました。その後、約1年の経過で増大傾向はありませんが、読影では指摘しておきたいサイズの結節です。本症例では腹部骨盤領域に関心が向いていたため、気が付くことが難しかったものと思われます。主訴と関連の薄い領域は評価がおろそかになりがちです。人間の目の弱点を補ってくれるのがAIソフトウエアの強みです。

症例③ 腹部骨盤のCTには肺底部が写っている。 腹部骨盤領域に関心が向くと、肺底部の評価がおろそかになる。

 症例④ 80歳台男性 前立腺癌治療中 療効果判定のためCT施行

前立腺癌治療中の患者さんです。CTで新たに右鎖骨上に小さなリンパ節を認め、転移が疑われました。見落とすことなく指摘できましたが、集中力が低下した状態では見落としが起きてもおかしくないサイズです。Plus.Lung.NoduleでもROIが表示されています。2か月後のフォローCTで病変の増大を認め、リンパ節転移と確定されました。

症例④ 右鎖骨上リンパ節腫大が出現。集中力が低下した状態では見落としが起きてもおかしくないサイズの病変である。

 症例⑤  60歳台男性 上行結腸癌 肝転移術後CEA上昇があり再発病変精査のためCT施行

上行結腸癌、肝転移術後の患者さんです。Carcinoembryonic Antigen(CEA)上昇があり再発病変精査のためCTが行われました。
    Plus.Lung.Nodule導入前の症例であり、残念ながら人間の目では左下葉内側の転移を指摘できませんでした。2か月後に結節が増大して指摘されました。後日、AIの解析を追加したところ、結節部分にROIが表示されていました。AIによるダブルチェックがあれば見落としを防げたと思われます。

症例⑤ Plus.Lung.Nodule導入前の症例。 左下葉内側の小さな転移を指摘できなかった。2か月後に
                        結節が増大し指摘された。AIによるダブルチェックがあれば見落としを防げたと思われる。

 症例⑥  60歳台男性 両肺多発GGNあり 経過フォローのためCT施行

両肺に多発するGround-Glass Nodule(GGN)をフォローされている患者さんです。Plus.Lung.Noduleは感度がよく、GGNにもROIが表示されます。病変のオートトラッキング機能によりサイズの増大を自動的に評価できるため、読影時間の短縮につながっています。

症例⑥ Plus.Lung.NoduleはGGNを読影する場合にも有用である。 病変のオートトラッキング機能
        により、サイズの増大を自動的に評価できるため、読影時間の短縮にもつながる。

人間の持つ経験知がAIの利便性を引き出す

AIによるデジタル解析の感度の高さはすでに人間の目を上回っています。一方で、診断においては経験を積んだ医師だけが気づくことができる、「わずかな違和感」というものがあります。デジタル解析では軽微とされる所見であっても、臨床情報を考慮すると重視すべき場合があり、それが正しい診断へとたどりつく手がかりとなることも稀ではありません。AIのもつ正確性と、人間の持つ経験知や専門性をみ合わせることで、これまで以上に画像診断の精度は向上していくでしょう。

最良の画像診断をすべての患者さんに​

AIの登場によって放射線科医の仕事がなくなると言われたことがありました。AI研究の第一人者であり、ノーベル物理学賞受賞者であるGeoffrey E. Hinton氏が2016年に「AIのほうが放射線科医よりも賢くなるので、放射線科医への無駄な教育はやめたほうがいい」と発言したことに端を発しています。しかしそれから8年が経って、放射線科医の仕事は増え続けています。このことは19世紀に写真機が発明されたときと同じです。写真というものが世の中に登場したことで、もはや画家という仕事はなくなるだろうと言われました。しかし実際は20世紀にピカソが現れ、写真機では捉えられない多面体をキャンバスに描き美術界に革命をもたらし、画家の仕事の幅を大きく広げました。私たち放射線科医もまた、AIという技術を手にしたことで、これから新たなステージへと進んでいくと感じています。しかしどれほど技術が進化しても、医療が目指すものはヒポクラテスの時代から変わりません。怪我や病気に苦しむ患者さんの苦痛を取り除き、患者さんが本来の自分の生活に帰り幸せに過ごせるよう尽力することです。最良の画像診断をすべての患者さんに届ける、AIはその一助になると信じます。

参考文献
1) Ideguchi R, et al. The present state of radiation exposure from pediatric CT examinations in Japan-what do we have to do? J Radiat Res. 2018;59:ii130-ii136. doi: 10.1093/jrr/rrx095.
2)Kumamaru KK, et al. Global and Japanese regional variations in radiologist potential workload for computed tomography and magnetic resonance imaging examinations. Jpn J Radiol. 2018; 36: 273-281. doi: 10.1007/s11604-018-0724-5.
3)Li D, et al. The added effect of artificial intelligence on physicians' performance in detecting thoracic pathologies on CT and chest X-ray: a systematic review. Diagnostics (Basel). 2021; 11: 2206. doi: 10.3390/diagnostics11122206.
4)Miki S, et al. Prospective study of spatial distribution of missed lung nodules by readers in CT lung screening using computer-assisted detection. Acad Radiol. 2021; 28: 647-654. doi: 10.1016/j.acra.2020.03.015.

藤沢市といえば

藤沢市は、海と都市が共存する神奈川県・湘南エリアの中心地として、多くの人々に親しまれています。
代表的な観光地である江の島は、風光明媚な景観と歴史ある神社が魅力のスポットです。島内では新鮮なしらすを使った料理が楽しめるほか、展望台からは相模湾や富士山を一望することができます。
また藤沢市には江ノ電(江ノ島電鉄)が走っており、レトロな車両に乗って、海沿いの風景を楽しみながら鎌倉方面へ向かうことができます。
途中には、「スラムダンク」のオープニングに登場する鎌倉高校前駅もあり、外国人観光客が多く訪れる人気のスポットとなっています。

休日の過ごし方は?

学生時代の友人とそばを食べ歩いています。東京・神奈川を中心に隠れた名店を探すのが楽しみです。年に1回は長野や栃木にも遠征にいっています。
それ以外の時間は、読書と睡眠、Amazon PrimeやNetflixでの映画・ドラマの一気見をしています。

自慢できることは?

寝つきがよいことです。最近、長年使っていたベッドを買い変えて睡眠の質が上がりました。健康維持のためできる限り長く寝るようにしています。

藤井先生からひとこと

藤沢市は温暖で暮らしやすい土地です。現在の自宅は海まで歩いて3分で散歩に最適です。自然が豊かな土地ですが、東京都心までも電車で1時間以内とアクセスが良い点も気に入っています。

 藤井 佳美 先生

   藤沢市民病院 放射線診断科

   診療科部長

    2020年 藤沢市民病院放射線診断科部長(~現在)

    2005年 東海大学医学部医学科卒業後、徳山中央病院(山口県周南市)で初期臨床研修。

            京都市立病院放射線科専攻医を経て、藤沢市民病院画像診断科へ入職

     2000年 東海大学医学部医学科に学士入学

    1997年 大阪読売テレビ放送(株)報道局に入局(報道記者)

    1997年 早稲田大学卒業

本稿に登場した製品情報

■一般的名称  汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム

■販売名    Plus.Lung.Nodule プラスラングノジュール

■認証番号   301AGBZX00004000

■製造販売業者 プラスマン合同会社

■ウェブサイト https://plusmanllc.co.jp/technology/pluslungnodule/