Plusman LLC

2023年4月

Mathematical Medicine Vol. 3

医療用AIの第一人者に聞く Interview with Leading Experts in the Medical AI Field

AIに対して前向きになることが、
放射線科、さらには患者さんのためになる

村山 貞之 先生

琉球大学 名誉教授
日本医学放射線学会 前理事
日本肺癌学会 特別会員
胸部放射線研究会 幹事
呼吸機能イメージング研究会 前代表世話人

一流の先生にもAIは非常に役立つ

胸部放射線領域で輝かしい業績を残してこられた、放射線学会前理事、琉球大学名誉教授の村山貞之先生。様々なAIを試してみて、最終的にプラスマンのAIに決めた理由はなんだったのか?それが読影においてどう役立っているのか?AIを用いた臨床科とのコミュニケーション、適切ユーザー、胸部単純写真AIのこと、そして最後に若いドクターへのメッセージをお伺いしました。 

琉球大学 名誉教授 村山 貞之先生

精度やリンパ節の表示が読影に有効

プラスマン 村山先生は放射線診断において、胸部領域を中心にたくさんの輝かしい業績を残されています。そのため、多くのAIベンダーが先生のもとを訪れ、様々なAIを見る機会や使う機会があったと思いますが、最終的にプラスマンのAI、Plus.Lung.Nodule(※)(Plus.Lung.NoduleにPLNという愛称を命名くださったのは村山先生。以下、「PLN」とする)を選択されました。その理由はどういったところにあったのでしょうか?

※ 管理医療機器:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム 販売名:Plus.Lung.Nodule プラスラングノジュール 認証番号:301AGBZX00004000 製造販売業者:プラスマン合同会社

村山先生 他の会社の製品も見ていましたが、実際に使ってみて良さそうであれば、プラスマンの製品を使いたいという気持ちは最初からあって、試行期間に使わせてもらえたことが良かったです。他の会社の製品を使い比べたり、精度を確かめたりして、肺結節の関心領域の表示や読影に関して、非常に有効だと思いました。また、PLNが元のCT画像にオーバーレイする形で丸く印を付けてくれるため、慣れると非常に見やすく、かなり導入に傾きました。また、他の製品と違い、リンパ節の関心領域の表示もできる点が非常に魅力的でした。

プラスマンはベンチャーなので、フットワークが軽いのではと思っていました。自分が注文をつけたことに対して、真摯に対応してもらえるのがベンチャーのよいところです。

プラスマン 他の製品と違う点で、リンパ節のお話がありましたが、臨床の中で、どのように活用されていますか?

村山先生 造影CTまで撮る胸部CTは、肺癌の精密検査や縦隔腫瘍精査のために撮影をすることがありますが、通常は造影なしのCTで肺結節やリンパ節に関しての読影を行います。そのときに一番気になっていたのは、右の肺門にリンパ節腫脹があった場合に読影が難しく、リンパ節腫脹ななしという判断になることで、一抹の不安が残ります。というのは、肺門の部分は肺動脈と連続性があるので、区別が難しいからです。リンパ節腫脹に関して、サンプルケースのようなもので、造影と非造影CTを比較したプラスマンのデモがホームページにありました。そこで気になっていた部分が単純CTでしっかり表示できていたので、実際に使えるか疑問を抱きながらも、非常に興味深いと思いました。

非専門医だけでなく、専門医もPLNを利用すべき

プラスマン 実際にPLNをご利用されて、どのような先生や施設での使用に向いていると考えられますか?

村山先生 このようなAIを用いた研究の話や実際に使っている話を見聞きしますが、胸部画像の専門家はあまり使っていないようです。まずは、胸部CTの読影に慣れていない人に有用だと思います。CAD(Computer-Aided Decection)は昔から専門家にとってはあまり有用性が高くないですが、胸部の専門ではない読影者や初学者には非常に有用性が高いといわれています。実際に使用すると、論文でもいわれているように、中枢側の血管の横にある結節は、血管の輪切りと紛らわしく、今回のPLN導入初期の症例で前回との比較でまさに血管の横の結節を検出できていない症例がありました。また、半年間、実際に使用していますが、これはPLNがなければ自分は見逃すかもしれなかったケースにも遭遇しました。今回は約2か月のプレスタディをしましたが、人間が血管の側の結節を見逃しやすいことを認識するよい機会になったと思います。実際にレビューをして、見逃していたものが見つかったわけですし、見逃したかもしれないと思う症例もあったので、そのような点は勉強になりました。それから多数の微小結節が同定されますが、以前は非常に小さな結節を無視していたかもしれないと自分でも思います。

PLNをどのような人が使用するべきかという質問でしたが、専門家でも見逃すことはあります。PLNは小さくても必ず表示してくれるので、読影に携わるものは、全員が使用するべきです。PLNを使用すれば、より確実な読影ができます。

プラスマン 今のお話ですと、AIは、スペシャリストは使用せず、若手の先生や非専門医の先生が利用されるとよく聞きますが、PLNはそのような先生方だけではなく、一流の先生の役に立てる部分があると考えられますか?

村山先生 一流の先生にも非常に役に立つと思います。

PLNのおかげでほとんどの患者さんが微小結節を持つことがわかり、
判断に迷わなくなった

自分の中ではパラダイムシフトしました

村山先生 今までの読影時間と比較して、どのくらい短くなったか、長くなったかですが、画像をしっかり見るようになり、感覚としては以前よりも少し時間がかかるようになりました。今までは1、2ミリぐらいの結節は意識になかったためです。全ての血管の一部と思っていたかもしれません。PLNを導入して、ほとんどの人が2ミリほどの結節をもっていることがわかりました。(※)

昔、Swensen先生が胸部CTの検診を始めた際に、70%ぐらいの人は、みんな結節を持っているという論文がありましたが、それはアメリカの被検者の特徴で、日本人で結節を持っている人は少ないと思っていました。しかし、PLNを使うと、ほとんどの人が2ミリ異常の結節を持っていたので、Swensenさんが言っていたことがその通りだとわかりました。そして、読影する患者は2ミリ以上の結節をほぼ持っているはずと、考えが変わりました。

胸膜の近くに肺内リンパ節がありますが、そのような小さなものが、ほとんどの人に存在していることになります。どのような判断にするか悩みましたが、ほとんどの人が持っている2ミリくらいの結節は有意な大きさではないので、「微小結節が数個認められますが有意な結節ではないと思います」という所見にしています。3ミリ異常で円形、あるいは5ミリ異常で円形、あるいは5ミリ異常の結節には気を付けます。3ミリはほとんど悪性ではありませんが、5ミリ異常になると有意かもしれない可能性が高くなり、初期段階かもしれないので、レポートをしっかり書いています。

以上述べたように、さらに小さい結節がたくさん存在することが、今ではわかりましたが、PLNを導入するまではわかりませんでした。そのくらい自分の中ではパラダイムシフトが起こりました。

※ Lung Cancer Screening with CT: Mayo Clinic Experience, Stephen J. Swesen, et al., Radiology 2023.3226.3, 756-761

プラスマン 2ミリぐらいの結節は経過を見るしかありませんか?

村山先生 そうだと思います。論文では、5ミリ以下の結節は悪性になる確率がものすごく低いので、検診は1年に1回でよくて、短いスパンで経過を追う必要はないとされています。私は2ミリぐらいの結節がたくさんあることを今回知ったので、更に確信できました。昔は5ミリ以下でも、3ミリの結節を見つけてしまうと、「経過観察をしてください」という書き方をしていました。しかし、それはたまたま見つけた結節で、他にもあったが見えていなかったかもしれないと思います。5ミリや6ミリなど、様々な診断基準がありますが、それらは正しいです。5ミリ以下の小さな結節は、腫瘍かもしれないと思っても、ほとんど経過観察が必要ないということを改めて認識しました。

PLNの解析結果を呼吸器内科と呼吸器外科の先生には共有している

プラスマン 浦添総合病院ではAI診断の結果を臨床科の先生もご覧になられていますか?

村山先生 PLNの解析結果は臨床科の先生にはオープンにしていません。ただ、呼吸器内科と呼吸器外科の先生には、PLNで結節に関心領域が示されている画像をレポートに添付して送っています。なので、PLNを導入したことや、PLNにより関心領域表示されたことは、わかっていると思います。しかし、この端末を呼吸器専門の内科と外科の先生も見られるようにするかは現在検討中です。リンパ節が結節と一緒に表示されるので、読影が煩雑になるかもしれず不評を買う可能性があります(結節とリンパ節が一緒に表示されるか、別々に表示できるかはViewerの仕様による)。臨床科の先生からの積極的な申し出があるまでは、待とうと思います。

呼吸器内科と呼吸器外科の先生は、肺癌の日常臨床に関わっているので、彼らには見せた方がよいと思いますが、他の先生には見せるべきではないかもしれません。AI診断についての説明を個々にしなくてはなりませんが、そこまでする必要はないと思います。ただ、実際に使っていることは仄めかしています。

プラスマン 呼吸器外科と内科の先生に、AIの丸が付いた画像を添付したことで、先生方から何か反応はありましたか?

村山先生 呼吸器科のある先生は「AIが入っているんですよね。効果的ですね」という言葉をいただいています。何人かの先生は、先日の私の講演を聞いていると思います。

使い方の教育が必要

プラスマン 先程のお話に関して、今後、臨床科の先生が、AIが導入された端末を使いたいと申し出て、使わせてもよいという状況になった場合を想定します。画像診断AIを臨床科の先生が使う際に、今のAIに足りない部分はありますか?

村山先生 先程も申し上げたように、PLNには2ミリ以上の結節が引っかかるので、表示される数が多いです(PLNは、関心領域の表示に関して、何ミリ以上の結節を表示するかといった結節の径の閾値や表示される結節の数を自由に設定可能)。そうすると、先程は肺内リンパ節の話をしましたが、結節ではない血管の曲がった部分や胸膜下にできる限局性の無気肺など、様々なものが表示されます。詳しいことを知らない人は、「これはいったい何だろう?」と迷ってしまいます。自分で結節の判断ができない先生たちにとっては、かえって苦痛かもしれません。これは「結節があります」と言うべきかの判断が難しいためです。なので、もしAI診断を広く利用する場合は、使用する先生は講義を受けて、使い方を習得する必要があります。CT検診学会ではサマーセミナーなのでCT検診で結節を見つけるための教育を行っています。AI診断についてもそのような教育が必要です。ただ、「これを使ってください」と言われても、初学者にとっては迷うことがたくさん出てくるので、研究会やセミナーで学ぶ必要があります。

なので、AIは売りっぱなしではいけません。肺では小さな結節がたくさん見つかりますが、これらの判断は難しい可能性があるので、偽陽性例のリストが必要です。そちらの方が大切かもしれません。

AIの読影の設定を2ミリではなく5ミリにすれば、多数表示はされないかもしれませんが、それではAI診断の価値が下がります。他の先生が使うためには、偽陽性をどのように処理するかにかかっていると思います。様々な結節の中で、引っかけなくてもよい結節が理解できる知識を持っていないと大変です。しかし、AIの感度を落とすと、今度は結節を見落とすおそれがあります。なので、私は今のままでよいと思いますが、みなさんがどのように思われるかはわかりません。

プラスマン AIの普及という点で、研究ではなく、一般のユーザーに診療でAIが使われるようになるにはどうすれば良いと考えられますか?

村山先生 試してもらうことが一番かもしれません。昔、あるモダリティが急速に普及しましたが、様々な病院で使用してもらい、ベンダーさんが悪い点や良い点をすぐに他の病院と共有されていました。様々な問題点はすぐに改善されていきました。なので、AIを使用してもらう病院に質問や調査をして、使う際の注意点を取得してもらうことが大切だと思います。

たとえば、間質性肺炎とMRIの制限拡散の領域において、診断の価値が高まっている

AIには質的判断はできない

プラスマン AIの一つの方向性として、単に関心領域がある部分に丸を付けるだけではなく、例えば肺癌の定量値を算出したり、VDT(Volume Doubling Time)のように病気の何か診療に役立つ情報を計算したり、自動で表示したりするような機能についてはどう思われますか?

村山先生 それは次のステップです。肺の結節が良性か悪性であるかということを質的診断といいます。質的診断は学会で研究ネタとしてよく見られますが、一般の医者がそこまで行うかはわかりません。たとえば、1センチ以上の結節に対して、癌であるか、癌ではないかという診断をします。CT検診で見つかる症例は、そこまでの質的診断はいらないと思います。結局は無視するか、経過観察をクローズにするか、生検を行うか、あるいは手術を行うかの判断になるので、次のステップに質的診断は任せてもいいと思います。なので、質的診断は大切ですが、精度を上げることよりも、小さな結節が見つかったときに、どのような判断をするかということが重要です。

この点については今のAIでは難しいと思います。AIは思考をして結節を見つけていないので、次のステップとして、人間の判断がどうしても必要になると思います。肺癌が良性かという判断に、今回はVDTの機能も導入させてもらいますが、非常に楽しみですし、役に立つと思います。しかし、それは専門家同士の間の話になります。このAI、PLNは一般の内科医や検診センターの人のことを考えると、次のステップで他の専門家のところに行く前の段階ですから、そこまでの有用性はないかもしれません。

鎖骨に重なる結節所見も得意な胸部単純写真AI

Plus.CXR(※)のバージョンアップを行い、村山先生にご用意いただいたテストデータを解析し、その結果を講評いただいた。

※ 管理医療機器:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム 販売名:Plus.Lung.Nodule プラスラングノジュール 認証番号:301AGBZX00004000 製造販売業者:プラスマン合同会社

左下葉のsolid肺癌と最外側のpart-solid結節の例

村山先生 すごくよくなっていますね!特に、死角部位の一つの鎖骨のところの所見に関心領域を表示できるようになっているのがすごく良い!この内容をまとめて、どこかの研究会等で発表したいと思います。

最終目標は患者さんを救うこと。だから、医療全体のレベルを上げる研究をすることが重要

プラスマン 診断の価値は治療法の関数なので、たとえ診断が精緻で早期だったとしても、そこに対応する治療法がないのであれば、その診断の価値がなくなってしまいます。一方で、治療の価値が高まると、精緻な診断の価値も高まると思います。ですので、基本的には、診断の価値は時代と共に高まるものだと思いますが、以前と比べて特に診断の価値が高まったと思う領域や疾病はありますか?

村山先生 癌に関連することであれば、遺伝子関連の抗腫瘍効果がある様々な薬や、これまでは治療法がなかった病気の治療法が出現したら、それに合わせて画像診断も進化しないといけません。例えば胸部であれば間質性肺炎に対する抗線維化薬ができています。通常型間質性肺炎(UIP)の診断はしっかりつけないといけません。今までは肺移植以外の治療法のない疾患でした。そこで、どこかにUIP以外の他の原因で生じた間質性肺炎の証拠はないかを探したものです。証拠があれば、ステロイド治療、つまり治療薬の対象になるからという読影のやり方をしていましたが、現在は積極的にUIP、活動性の間質性肺炎と診断すれば、高価ですが抗線維化薬を使うことができます。

MRIは様々な質的診断のために、今後は多くの役割を担うと思います。制限拡散の撮影方法は、様々な医療のパラダイムシフト的な役割を果たしたと思います。先程のAIは関心領域の表示ということでしたが、現在は質的診断や治療法の判断まで求められる画像診断になります。しかし、結局それはWork-in Progressの研究的なことになります。ある程度数値化できて、手術や化学療法に振り分けられる基準ができたとすると、それらは数値を測ればわかることなので、画像診断ではなくなります。大学の人間は、より高いレベルの診療が行われるための研究をしていますが、放射線科医や画像のプロとしてのレベルが上がるというよりも、医療全体のレベルを上げる研究をすることが重要です。腫瘍が癌か癌ではないかという診断をする力をつける研究ではありません。なので質的診断のAIは、放射線科のスペシャリストがいらなくなるような方向性になるかもしれません。最終目標が医療の向上で、患者さんを救うことだと考えると、画像診断の研究も、そのような方向性であることが大切だと思います。

プラスマン 新しい治療法が出てきましたが、それらに対しる診断の早期化についてはどのようにお考えですか?

村山先生 ポイントを見つけて、きちんと診断ができれば変わりますが、そこまでピンポイントにはできないと思います。先程、少し話に挙げましたが、間質性肺炎に生じる肺癌は丸くありません。丸いものもありますが、丸くないことも多いので、それが癌であるかをしっかり判断できないといけません。それは一般医にはかなり厳しいので経験が必要です。様々な文献をしっかり読んだ上で、経験を積み上げれば、様々な方向性から治療までつながる診断になると思います。

とにかくAIを毛嫌いしないこと、AIをたくさん使いましょう

プラスマン 村山先生は大学の先生を務められましたが、大学を離れてAIを用いた診療に対するスタンスが、どのように変わったかをお聞かせください。

村山先生 これまではAIに関する研究的なことに従事していましたが、今は一人のユーザーとして、それをより良いものに改善していきたいと思っています。AIは今後の胸部画像の診療において必要だと思うので、普及のために努力をしたいです。

プラスマン ありがとうございます。ぜひ一緒にお願いしたいと思います。

最後に、教授を務めあげられた村山先生から、AIを用いた新時代の放射線診療を行う若いドクターに向けて、メッセージをお願いします。

村山先生 とにかくAIを毛嫌いしないことです。AIをたくさん使いましょう。

浦添総合病院で、私は初期研修医に向けて月一回講義を行っています。その中で、「AIを導入されている施設で勤務した方が良い」と伝えています。

AIの問題点が出てきた場合は、その問題点をもとに研究をしてください。とにかくAIに対して前向きになることが、放射線科のためになるし、さらには患者さんのためにもなると思います。

 村山 貞之 先生

   琉球大学 名誉教授

   日本医学放射線学会 前理事

   日本肺癌学会 特別会員

   胸部放射線研究会 幹事

   呼吸機能イメージング研究会 前代表世話人  

 

     所属:浦添総合病院 放射線科 顧問

     2021年度 琉球大学医学(系)研究科(研究院)名誉教授

     2010年度-2020年度 琉球大学医学(系)研究科(研究院)教授

     1999年度-2009年度 琉球大学医学部 教授

     1997年度-1998年度 九州大学医学部 講師

     1991年度 九州大学医学部 助手

     1981年度 九州大学医学部 卒業